こういうアメリカにちょっと安心 ~豊田市美術館・ワイエス展~
しびれました。
ワイエスを語る際には「孤独」「静寂」という表現がよく使われます。
ワイエスの絵には、青空がほとんどありません。
白黒かと思うような絵が何枚もあります。
華やかな絵は、ほとんどないと言って良いでしょう。
予備知識なしで見たら、こう感じる人がいるでしょう。
「なぜこんなものを描くのか解らない」
「地味」
ですから今回の展覧会では、絵の脇にある解説が大切だなと感じました。
「ここは、どんな場所なのか」
「なぜこの部分に光が当たっているのか」
「この部分は、何を象徴しているのか」
「ワイエスは、なぜこれを描いたのか」
そういった事が解説されます。
ワイエスの絵は、意図を読み解くと味わいが違ってきます。
こういう解説は大切です。
描かれる風景は、よく「アメリカの田舎」と表現されます。
しかしそれは、北東部のメイン州やペンシルベニア州です。
一般的日本人が想像するであろう、中西部の田舎とはかなり違います。
「北欧もしくはカナダの風景」と言った方が、日本人にはしっくりくるかもしれません。
「絶景」ではありません。
それどころか、しばしばおんぼろの家が描かれています。
ワイエスや、彼の絵に登場する人々も、日本人が想像するアメリカ人とは違うようです。
ワイエスの代表作に登場する女性は、足が不自由です。
ワイエスは、彼女の生命力に感動し、絵に描くという感受性を持っていました。
加えて、黒人少年と遊び、黒人をモデルとして描くこともあったそうです。
それは、ワイエス自身が身体虚弱で、小学校になじめなず2週間で退学したという人であったからでしょう。
メイン州は、東部のいわゆる「ニューイングランド」です。
もともとは、マサチューセッツ州に属していました。
マサチューセッツと言えば、ヘンリー・ソローです。
代表作として『森の生活』が有名ですが、『市民の反抗』という著作もあります。
ワイエスは、ソローの影響を受けたと言われています。
なるほど。
メイン州もマサチューセッツ州も、大統領選挙では民主党が勝ち続けています。
そういう土地柄なのです。
私が何を言いたいかというと。
「トランプ大統領の支持基盤とは全く違う人々と風景が、そこにある」ということなのです。
ワイエスはアメリカでは「国民的画家」と位置付けられているそうです。
ワイエスの絵は、多くのアメリカ人に共感されているのです。
アメリカ人と言っても「MAGA」を叫ぶ人々ばかりではないのです。
アメリカにも、筋を通す人、理知的な人が数多くいるのです。
考えてみれば当たり前のことなのですが、ちょっと安心しました。
ワイエスの画風は、日本人のメンタリティと相性が良いのではないでしょうか。
この日は初日ということもあってか、多くの入場者がありました。
客の見学マナーは概ね良く、駐車場には「あの下品でデカい車」がわずかな数しか停まっていませんでした。
(愛知県の路上ではよく見るのですが)
こういう絵を見に来る日本人は、やはりちょっと違う人たちなのでしょう。
「アメリカ人も日本人も、まだ捨てたもんじゃない」
「まだ、望みはある」
美術展の帰り道に、こんな感想を抱くことになるとは思いませんでした。
展示替えがあるそうなので、9月にもう一度行こうと思っています。
ワイエス展についてはこちら
(豊田市の次は大阪会場へ行くそうです)
【余談】
私が初めてワイエスの絵を知ったのは、教員になってからでした。
岩本康裕氏の講座の中で、ワイエスの絵が紹介されたのです。
それは、ワイエスの代表作である「クリスティーナの世界」でした。
この絵を児童にどう鑑賞させ、どう鑑賞文を書かせるかという話でした。
この絵は、講座の内容以上に、私の心に強く残りました。
当時、私の問題意識の一つは「文学教材の鑑賞」でした。
例えば俳句や短歌であれば、児童にこんなことを問います。
「見えるものは何ですか」
「聞こえるものは何ですか」
問いは、触覚であったり、嗅覚であったり、味覚であったりします。
作者の心情を問う場合もあります。
「対比されているものは何と何ですか」
「作者はどこから見ていますか」
そういうことを問う場合もあります。
このように分析していくことで、直接書かれていない種々の物事に気が付くことができます。
岩本氏の講座は、こうした手法を美術鑑賞に応用するには、という内容でした。
(後に書籍化されました)
ワイエスを鑑賞するにあたっては、「ただ、感じなさい」ではダメでしょう。
特に素人には「分析する」等の「鑑賞のものさし」が有用だと思うのです。
ワイエスの絵の着眼点を示した「鑑賞のてびき」を作ると、子どもにも大人にも役立つのではないでしょうか。
大阪会場の主催者さん、試してみませんか。
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