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2026年7月19日 (日)

こういうアメリカにちょっと安心 ~豊田市美術館・ワイエス展~

しびれました。

Whyeth

ワイエスを語る際には「孤独」「静寂」という表現がよく使われます。
ワイエスの絵には、青空がほとんどありません。
白黒かと思うような絵が何枚もあります。
華やかな絵は、ほとんどないと言って良いでしょう。

予備知識なしで見たら、こう感じる人がいるでしょう。
「なぜこんなものを描くのか解らない」
「地味」

ですから今回の展覧会では、絵の脇にある解説が大切だなと感じました。
「ここは、どんな場所なのか」
「なぜこの部分に光が当たっているのか」
「この部分は、何を象徴しているのか」
「ワイエスは、なぜこれを描いたのか」
そういった事が解説されます。
ワイエスの絵は、意図を読み解くと味わいが違ってきます。
こういう解説は大切です。

描かれる風景は、よく「アメリカの田舎」と表現されます。
しかしそれは、北東部のメイン州やペンシルベニア州です。
一般的日本人が想像するであろう、中西部の田舎とはかなり違います。
「北欧もしくはカナダの風景」と言った方が、日本人にはしっくりくるかもしれません。
「絶景」ではありません。
それどころか、しばしばおんぼろの家が描かれています。

ワイエスや、彼の絵に登場する人々も、日本人が想像するアメリカ人とは違うようです。
ワイエスの代表作に登場する女性は、足が不自由です。
ワイエスは、彼女の生命力に感動し、絵に描くという感受性を持っていました。
加えて、黒人少年と遊び、黒人をモデルとして描くこともあったそうです。
それは、ワイエス自身が身体虚弱で、小学校になじめなず2週間で退学したという人であったからでしょう。

メイン州は、東部のいわゆる「ニューイングランド」です。
もともとは、マサチューセッツ州に属していました。
マサチューセッツと言えば、ヘンリー・ソローです。
代表作として『森の生活』が有名ですが、『市民の反抗』という著作もあります。
ワイエスは、ソローの影響を受けたと言われています。
なるほど。
メイン州もマサチューセッツ州も、大統領選挙では民主党が勝ち続けています。
そういう土地柄なのです。

私が何を言いたいかというと。
「トランプ大統領の支持基盤とは全く違う人々と風景が、そこにある」ということなのです。
ワイエスはアメリカでは「国民的画家」と位置付けられているそうです。
ワイエスの絵は、多くのアメリカ人に共感されているのです。
アメリカ人と言っても「MAGA」を叫ぶ人々ばかりではないのです。
アメリカにも、筋を通す人、理知的な人が数多くいるのです。
考えてみれば当たり前のことなのですが、ちょっと安心しました。

ワイエスの画風は、日本人のメンタリティと相性が良いのではないでしょうか。
この日は初日ということもあってか、多くの入場者がありました。
客の見学マナーは概ね良く、駐車場には「あの下品でデカい車」がわずかな数しか停まっていませんでした。
(愛知県の路上ではよく見るのですが)
こういう絵を見に来る日本人は、やはりちょっと違う人たちなのでしょう。

「アメリカ人も日本人も、まだ捨てたもんじゃない」
「まだ、望みはある」

美術展の帰り道に、こんな感想を抱くことになるとは思いませんでした。
展示替えがあるそうなので、9月にもう一度行こうと思っています。

ワイエス展についてはこちら
(豊田市の次は大阪会場へ行くそうです)

【余談】
私が初めてワイエスの絵を知ったのは、教員になってからでした。
岩本康裕氏の講座の中で、ワイエスの絵が紹介されたのです。
それは、ワイエスの代表作である「クリスティーナの世界」でした。
この絵を児童にどう鑑賞させ、どう鑑賞文を書かせるかという話でした。
この絵は、講座の内容以上に、私の心に強く残りました。

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当時、私の問題意識の一つは「文学教材の鑑賞」でした。
例えば俳句や短歌であれば、児童にこんなことを問います。
「見えるものは何ですか」
「聞こえるものは何ですか」
問いは、触覚であったり、嗅覚であったり、味覚であったりします。
作者の心情を問う場合もあります。
「対比されているものは何と何ですか」
「作者はどこから見ていますか」
そういうことを問う場合もあります。
このように分析していくことで、直接書かれていない種々の物事に気が付くことができます。

岩本氏の講座は、こうした手法を美術鑑賞に応用するには、という内容でした。
(後に書籍化されました)
ワイエスを鑑賞するにあたっては、「ただ、感じなさい」ではダメでしょう。
特に素人には「分析する」等の「鑑賞のものさし」が有用だと思うのです。
ワイエスの絵の着眼点を示した「鑑賞のてびき」を作ると、子どもにも大人にも役立つのではないでしょうか。
大阪会場の主催者さん、試してみませんか。

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